駅名一覧作成に当たっての参考文献

 まず初めに、鉄道創業以来どれだけの私鉄が存在し、どのような路線の改廃が行われたのかを把握しなければなりません。鉄道史に興味をお持ちの方でしたら必携とも言える、和久田康雄氏の労作『私鉄史ハンドブック』はご存知でしょう。この本は、鉄道統計に表れた免許・特許を得た鉄道・軌道のほぼ全ての事業者の変遷をまとめたものです。
(「ほぼ」としましたのは、『鉄道省文書』が存在するにも係わらず、鉄道統計に登場しなかった事業者もあるからです)

 先に、私鉄の駅名変遷を総覧できる書物は存在しないと申しましたが、ある特定の時点での駅勢が分かるものとして、『鉄道停車場一覧』(昭和41年〜『停車場一覧』)が明治45年以来数次にわたって発行されています。これは、主に国鉄との連帯(連絡)運輸を行っていた事業者の駅名、営業キロ、開業年月日、所在地が掲載されている得難い資料です。民間発行のものでは、戦後に限りますが中央書院から6版を重ねた『駅名事典』があります。

 今回の『日本鉄道旅行地図帳』の編集にあたって、当事者である鉄道会社へも取材しましたが、歴史も長く合併など複雑な変遷を繰り返した事業者も多いため、当の鉄道会社自身が駅名の変遷を把握していない例が多くありました。
 また、これまでに市販された書籍は、公文書の公開が進んでいない時代に編集されたものですから、自ずと調査に限界があり、今まで通説として流布されてきたデータが本当にどこまで正確なのか確認する必要があります。
 ですから、可能な限り直接資料、一次資料に当たるように努めて参りました。私が私鉄駅名の調査を本格的に開始してから約20年になります。
 一次資料とは、国立公文書館や鉄道博物館に所蔵されている『鉄道省文書』や『内務省文書』になります。また、地方の公文書館にも、許認可の行政文書が残されています。
 幸い『鉄道省文書』は明治以来非常に多く残されてきていますので、国立公文書館には『内務省文書』を含めて凡そ5000簿冊は収蔵されているかと思われます。しかし、簿冊数が余りに膨大なためその全てを調査することは不可能です。
 路線や駅の改廃などがあった場合、『鉄道省文書』に「官報掲載案」の文書が綴じられていますが、路線や駅の改廃が『官報』に掲載されるのが通例となっている戦前の一時期がありました。ですから、『官報』を調べることも非常に有意です。また、連帯(連絡)運輸の関係で、『鉄道公報』にも私鉄の情報が掲載されています。
 それでも不明な点があれば、更に二次資料としての、社史や時刻表、市街地図等で補うことになります。

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