NEWS RELEASE:JR&私鉄    4
No.6085 (Re:6084) 【国土交通省】静岡県等からの抗議文
ひろやす/伊藤(vnnc8158) 2020-05-07 22:36:18
      第1回リニア中央新幹線静岡工区有識者会議における
       東海旅客鉄道株式会社金子社長の発言について

 4月27日に国土交通省で開催された第1回リニア中央新幹線静岡工区有識者会議において、東海旅客鉄道株式会社(以下「JR東海」という。)からの説明に先立ち、同社の金子社長から、「工事を進める事業者の責任者」として発言があった。有識者会議は、引き続き対話を要する事項 47項目を議題として科学的・工学的に議論するため設置されたものであるにもかかわらず、説明責任者である金子社長は、科学的根拠に基づく説明ではなく、県の姿勢への批判に終始した。その内容は、地域の水資源や自然環境へ影響を与える事業の責任者としての自覚と責任感に欠けており、また、根拠に基づかないものも含まれている。発言内容は地域としてはとうてい受け入れ難いものである。
 以下、静岡県、大井川流域市町、利水関係者の総意として、その発言内容の問題点を指摘し、JR東海の金子社長に対し、厳重に抗議する。

1 「環境に関する法制としては、環境影響評価法に基づいて、資料の作成をしております。私どもは、中央新幹線の事業は、有益な事業であるからと、環境保全を軽んずるつもりは全くございません。果たして、逆に、南アルプスの環境が重要であるからといって、あまりに高い要求を課して、それが達成できなければ、中央新幹線の着工も認められないというのは、法律の趣旨に反する扱いなのではないかと考えているものです。」という発言について

 県の行為が「法律の趣旨に反する扱い」としているが、これは、文脈から推定すると、「中央新幹線の事業は有益な事業なので、環境影響評価法に基づく南アルプスの環境の保全のためとして、環境影響評価のレベルとして、あまりに高い要求を課することは法律の趣旨に反する扱いであると考える」と解される。静岡県は、環境影響評価法(1997年6月制定)及び静岡県環境影響評価条例(1999年3月制定)に基づく事務を、長年にわたり適正に行っていると自負している。公開の場で行われた金子社長の「県の行為が法律の趣旨に反する扱い」としている発言は、県の環境影響評価事務の適正性を疑問視しているものと理解せざるを得ない。
 トンネル工事に伴う環境への影響に対する流域住民の不安に真摯に答えることなく、事業を進めようとすることこそ「法律の趣旨に反する扱い」であると考える。
 次に、「あまりに高い要求を課して」であるが、静岡県は、事業による環境への影響をゼロにする、いわゆる”ゼロリスク”を求めていない。
 静岡県が設置した中央新幹線環境保全連絡会議の地質構造・水資源専門部会及び生物多様性専門部会(以下「専門部会」という。)で指摘されてきたところであるが、ゼロリスクとはできないので、「事業によるリスクの推定上の不確実性の存在(どういう内容の、どの程度の環境影響が発生するかを事前には確度高くは推定できない)を認めた上で、その不確実性を工事前・工事中・工事後にどう管理していくか」という「リスク管理の基本的考え方と方法」、すなわち、「事前の対処によって影響をできる限り小さくし、残るリスクに対し、工事中、工事後の観測・モニタリング情報を用いたリスク管理の仕組みによって、どう対処し、影響を低減していくか」を示すことを求めている。静岡県及び専門部会から、この問題を再三指摘されているにもかかわらず、JR東海は、リスク管理の重要性を未だに理解していない。

2 「私たちはトンネル工事に伴う大井川中下流域の水資源への影響について、河川流量は減少しないことや、また地下水への影響で、地域の方々に御迷惑をお掛けしないという説明を行いまして、そして、万一影響が生じた場合には補償を行うということも明らかにしております。」という発言について

 確かに、これまで、JR東海は、県、市町、利水関係者(以下「県等」という。)に対し、そういう説明を行ってきている。しかし、その説明は県等及び県民の納得できるものとなっていない。
 例えば、県等は「工事中に静岡県内区間で発生するトンネル湧水が山梨県側に流出しても、静岡県の河川流量は減少しない」とするJR東海の見解の科学的根拠とわかりやすい説明を求めている。
 大井川流域内で発生したトンネル湧水を大井川流域外に流出させれば、大井川流域の水資源に何らかの影響を与えることは自明である。
 しかし、JR東海は、「河川流量は減少しない」という金子社長の発言のように、未だに「計算モデルによる計算結果によれば河川流量は減少しない」という説明に終始しており、その科学的な根拠は十分に示されていない。
 また、「迷惑をお掛けしないという説明を行いまして、万一影響が生じた場合には補償を行うということも明らかにしております。」と金子社長は理解されているようであるが、「迷惑をお掛けしないかどうかが明らかにされていない」からこそ、流域住民は不安を感じて、日々、心配の種となっている。このことを金子社長は理解していない。
 また、「万一影響が生じた場合には補償を行う」のは当然である。その前に必要なことは、工事の実施前の段階で、影響を回避する最大限の努力を行うことである。工事中に、トンネル湧水が山梨県側に流出することを回避する努力を怠り、「地域の方々に御迷惑をおかけしない。影響が生じた場合には補償する」という説明では、地域住民は安心できない。

3 「静岡県のホームページでは、トンネル掘削箇所付近から 100km程離れている大井川の中下流域までいかにも水路が存在しているような図が示されておりまして、これは上流部のトンネル掘削工事が中下流域の地下水の減少をもたらす仕組みが示されているかと思います。」という発言について

 この発言は、静岡県のホームページに掲載している「リニア中央新幹線建設に係る大井川水問題の現状・静岡県の対応」13ページの図(参考資料1)を指摘しているものと思われる。この図は、トンネル掘削により発生する可能性のある現象(リスク)を、わかりやすくモデル化するため、トンネル掘削による本坑トンネル近傍の表流水、地下水の流れの変化を示したものである。「100km程離れている大井川の中下流域までいかにも水路が存在しているような図」ではないことは、トンネルと導水路トンネルの流出口の位置関係を見れば明らかである。金子社長の発言は、事実と異なるだけではなく、県が地下水の影響が中下流域に及ぶことを示すために意図的に作図した資料であるかのごとく印象づけるものである。

4 「有識者会議では、静岡県の専門部会からも参画をされておいでになりますので、専門的な知見から、これまで心配な事態が起こる蓋然性について、どの程度なものなのか、また、発生する可能性が大きいと考えておいでなのか、あるいは小さいものなのかを、お示しいただければありがたいと思います。」という発言についてどういうリスクがあり、それがどの程度であり、どう対処するかは、事業者が整理すべきものである。この点については、専門部会においても、リスクマップやリスクマトリックスとして整理するよう再三申し上げているが、未だにJR東海からは示されていない。
 まずは、専門部会に対して、自ら「リスクの内容、大きさ、発生確率、リスクの対処方針」を提示し、事業者として説明責任を果たすよう求める。本来、事業者が自ら整理すべきものであるにもかかわらず、「お示しいただければありがたい」と有識者会議に求めることは、自らの責任放棄である。

5 「(食物連鎖図など専門部会から求められている課題は)大変ハイレベルで、時間を要する課題が含まれているわけでございます。さらに、静岡県はこれらの課題について着工前に完了しなくてはならないという意向も示されております。少なくとも大規模プロジェクトで、これまでのレベルの環境アセスを行っている例は、承知しません。私達は環境保全のために技術的に可能なことは精一杯対応するというスタンスですが、静岡県からはなかなか実現し難い課題が示されている」という発言について

 「少なくとも大規模プロジェクトで、これまでのレベルの環境アセスを行っている例は、承知しません」という発言は、他の全ての大規模プロジェクトの環境アセスの事例を調査し、それと県等が求めている環境アセスのレベルを比較した「根拠資料」をもとにした発言と思われる。その根拠資料を直ちに示していただきたい。
 環境影響評価のレベルについては、その事業の規模や事業内容、それによるリスクや不確実性の程度、影響を与える可能性のある地域の自然環境や経済社会環境の特殊性など、その事業内容や環境の地域特性等を踏まえて、個別に、適切に判断されるべきものである。
 ユネスコ・エコパークに認定されている南アルプスは、アクセスが困難なこともあり、人為が及んでいない貴重な自然環境が残っており、生態系は開発の影響を受けやすい。そのような場所において、貴社の言葉を借りれば、「鉄道トンネル史上例を見ない1400mもの土被りがある最大の難工事」が行われる計画である。そこでは当然、ハイレベルの環境影響評価が必要である。金子社長の発言は、鉄道トンネル史上、例を見ないトンネル掘削工事を行おうとしている南アルプスの自然環境の特殊性や大井川の水資源の特殊性をまったく理解しておらず、認識不足と言わざるを得ない。

6 「有識者会議におかれては、静岡県の整理されている課題自体の是非、つまり、事業者にそこまで求めるのは無理ではないかという点を含めて、ご審議いただければ幸いでございます。併せて、それが達成できなければ、工事を進めてはならないという県の対応について、これは、事業を所管されるのは国土交通省でありますけれども、こういった趣旨を踏まえて、適切に対処をお願いしたいと思います。」という発言について

 有識者会議が、科学的・工学的根拠に基づく議論を始める前に、「事業者にそこまで求めるのは無理ではないかという点を含めて、ご審議いただければ幸い」と、委員に対し、結論を誘導するかのごとき発言は理解しがたい。また、県等の主張は、先にも述べたように、着工前のゼロリスクを求めるものではない。「せめてそこまでは事前(着工前)に詰めておき、できる限り影響とリスクを回避・低減した上で、その後の、工事中・工事後の観測・モニタリング情報を用いた対処の仕組みによって、影響を回避・低減すべきである」という、リスク管理の基本に基づくものである。

7 発言全般についてー水循環基本法の理解の観点から

 水循環基本法では、その前文において、「水が人類共通の財産であることを再認識し、水が健全に循環し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受できるよう、健全な水循環を維持し、又は回復するための施策を包括的に推進していくことが不可欠である。」とし、第3条第2項では「水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものである。」、同条第4項では「水は、水循環の過程において生じた事象がその後の過程においても影響を及ぼすものであることに鑑み、流域に係る水循環について、流域として総合的かつ一体的に管理されなければならない。」とされている。このように、地下水を含め、流域の水は「公水」であり、その「公水」を流域外に流出させることは、水循環基本法の理念に反する行為であることを金子社長は認識願いたい。

8 発言全般についてー地域の人々、その暮らし、自然環境へのまなざし

 これまでJR東海に対し、繰り返し説明してきたとおり、過去の「水返せ運動」に代表されるように、大井川の水は先人の思いと行動や灌漑事業等の長年の公益事業により、水が確保されてきたという歴史がある。流域市町の生活・経済活動に必要不可欠な「命の水」、また、脆弱な南アルプスの自然環境保全のため、これまで多くの人々が努力してきた。そのような中、JR東海が、2013年9月に「トンネル工事により、大井川の河川流量が2./秒減少する」という環境影響評価結果を発表して以来、大井川流域の人々は、今日に至るまで、「命の水」が減少し、生活や経済に影響を与えるのではないかという不安を抱き続けている。
 金子社長の発言、とりわけ「あまりに高い要求を課して、それが達成できなければ、中央新幹線の着工も認められないというのは、法律の趣旨に反する扱い」との発言は、地域の人々の思いや行動、そして不安を軽視するものである。認識を改めていただきたい。

 以上のとおり、JR東海の金子社長の発言は、大井川の水資源及び南アルプスの自然環境を守って欲しいという大井川流域住民をはじめとする県民の思いを踏みにじるものである。また、県の環境影響評価事務の適正性の否定ばかりか、SDGsをはじめとした、世界の環境保全への取り組みを軽視するものである。このような発言が、リニア中央新幹線整備と大井川の水資源及び南アルプスの自然環境との両立を図るために科学的・工学的に議論する「有識者会議」の冒頭でなされたことは、静岡県、大井川流域市町、利水関係者として、決して容認できない。
 金子社長に対し、強く抗議し、然るべき対応を求める。
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