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No.325 (Re:323) 【鉄道友の会】2008年ローレル賞 車両の解説・選定理由(1)
ひろやす/伊藤(vnnc8158) 2008-06-16 23:16:51
2008年6月16日
鉄道友の会

東日本旅客鉄道 E721系・仙台空港鉄道 SAT721系

 東日本旅客鉄道 E721系・仙台空港鉄道 SAT721系は、仙台空港線開業を機に、仙台地区の都市圏輸送用として同時に開発された交流電車です。基本設計は両系列で共通ですが、一般仕様のE721系0番代に対し、同500番代とSAT721系は大型荷物置場を設けて空港利用客の便を図っています。
 仙台地区の多くの駅は、首都圏などの電車線区よりもホームの高さが低くなっており(線路からの高さ920mm)、従来の電車では、出入り口にステップを設けていました。しかし、ステップの存在は乗降時に不便であり、バリアフリーの観点から解決が必要な課題でした。ホーム高さのかさ上げには費用的・技術的な制約が大きく、逆に車両側で対応すると、ホームが高い駅での使用が不可能になるため、長い間、抜本的な解決は困難であるとされていました。
 それに対して、この車両は、あえて他線区での使用を考慮に入れず、首都圏などの最新車両と比べて遜色のないように、床面高さを大幅に下げ、ホームとの間の段差低減をめざして登場しました。具体的には、直径810mmという一回り小型の車輪を採用し、さらに台車周りの骨組み形状や機器配置の工夫や、交流電車に不可欠な主変圧器や制御装置など電気機器の小型化といった手堅い手法を採ることにより、床面高さ950mmの低床電車を実現しました。いっぽうで、運転台部分は従来の701系電車と同じ高さとし、相互の連結運転を可能とすることにより、使い勝手の向上も図っています。この車両は仙台地区の新しい標準車両として、集中的に投入されており、地域輸送のイメージを一変させる効果ももたらしました。
 限られた経営資源の中で、ホームのかさ上げといった大きな投資が容易ではない線区では、このような低床車両の投入による利用者サービスの改善効果は大きく、これを特殊な技術を用いることなく実現できたことによって、潜在的なニーズに応えることが可能になりました。自動車交通が圧倒的に有利な地方都市圏において、鉄道が鉄道であり続けるための利用者本位の思想が産んだ発想の転換が、首都圏などと遜色ない利用者サービスの提供を可能にしたといえ、このような車両を活用する積極的な施策により、鉄道輸送における地域格差の低減が期待されます。
 以上のように、「前例にとらわれない発想転換を伴う地域利用者本位の設計コンセプト」、「様々な工夫と機器の小型化による低床電車の実現」、「首都圏レベルの輸送サービスの地域展開」といった特徴が、選考委員会において評価されたことから、ローレル賞に選定しました。