ひろやす/伊藤(vnnc8158) 2015-01-27 21:53:49 |
別添2 2/3
4.JR九州の完全民営化にあたっての課題と対応 (1) 基本的な考え方 JR九州については、3.で述べたように、上場に向けた条件が整っており、累次の閣議決定で、「経営基盤の確立等条件が整い次第、できる限り早期に完全民営化する。」とされていることから、JR九州の完全民営化を達成することが適切である。 その際には、以下の視点を踏まえ検討を行う必要がある。 @ 国鉄改革の意義が、多様化する利用者のニーズに即応し、企業性を発揮した活力ある経営を行い得るようにするため、できるだけ民間会社と同様の、経営に自由と自主性をもった経営体制を確立することであったことからすれば、JR九州についても、自立した民間会社として、可能な限り自己責任で自由な経営を行うことのできる環境を整える必要があること。 A 一方で、国鉄改革が、国民生活充実のための重要な手段としての鉄道の役割と責任を十分に果たすことができるよう国鉄事業を再生することを目的として、国民の理解と協力の上に行われたものであることを踏まえ、鉄道路線の適切な維持等、国鉄を引き継ぎ、鉄道輸送を行う公共輸送機関としての使命・役割を果たすことを担保する必要があること。 その他、JR九州の株式については、国鉄に由来する国民共有の貴重な財産、いわば準国有資産であり、現在も政府に準ずる(独)鉄道・運輸機構が保有する公的な財産であること、その売却益は、旧国鉄職員の年金等の支払いや、引き続き特殊会社であるJR会社の経営自立に向けた支援等の使途があること等に鑑み、同社の株式売却においては、相応の売却益の確保を図る必要があることにも留意が必要である。 上記の視点から考える際、特に経営安定基金の取扱い及びJR会社法上の取扱いが課題となる。 (2)経営安定基金の取扱い 昭和62年の国鉄分割・民営化に際し、JR北海道、JR四国、JR九州の3社(以下「JR三島会社」という。)については、いずれも営業損益で赤字が生じることが見込まれたため、不採算路線も含め将来に亘り事業全体で採算が確保できるよう、発足時において長期債務を引き継がないこととした上で、将来における維持更新投資にも配慮して、なお生じる営業損失に対して何らかの措置を講じることが、安定的な経営を維持していくために必要とされた。 その方法として、旅客鉄道会社の自立性を阻害し経営責任を曖昧にすることがないよう、毎年の営業損失を公的助成によって補填するのではなく、これらの営業損失を補填し得る収益が生み出される措置として、旧国鉄(日本国有鉄道清算事業団に移行)の負担により、JR三島会社の固有の資産(純資産)として、JR北海道には6,822億円、JR四国には2,082億円、JR九州には3,877億円の経営安定基金を置くこととされた。 経営安定基金は、毎年基金から生み出される運用益によりJR三島会社の安定的な経営を維持していくために設置されたものであることから、その趣旨が損なわれることのないよう、JR会社法により、他の経理との区分、取崩禁止、確実有利な方法での運用が義務づけられている。JR九州は、この規制の枠組みの下で経営安定基金を運用し、年間120億円程度の運用益をあげているところである。 全国を上回るペースで九州地域の人口減少が進行する中で、今後もJR九州が、不採算路線も含めた鉄道ネットワークを維持する責務を担っていくことに鑑みると、完全民営化後においても、経営安定基金の果たしている機能を引き続き維持する必要がある。 しかしながら、経営安定基金を、取崩禁止等の規制が付された資産として、現行と同様の形で残すことについては、以下の二点の課題がある。 @ 完全民営化した後においても取崩禁止や運用に係る規制が付された資産、すなわち会社や株主が自由に処分することができない資産を持ち続けることになり、経営の自立性が損なわれること。 A JR九州の純資産の半分以上を占める経営安定基金が政府の規制の下にあることは、他の上場企業には見られない特殊な形態であり、投資家としても資産の評価が困難であること。 このため、JR九州が有する経営安定基金については、同基金が、経営環境が厳しいJR九州の鉄道ネットワークの維持・向上を図るための収益調整措置として設置されたという趣旨を踏まえ、同基金が果たしている機能・目的を実質的に維持しつつ、JR九州の自主性を確保し、相応の売却益を得る方法として、 (1) 長期安定的な収益性を有する他の資産への振替 (2) 将来の鉄道ネットワークの維持・向上に必要な鉄道資産への投資に充てることが適切である。具体的な取扱いについては、以下のとおりであり、これにより当面必要となる費用の一部が賄われ、財務状況の改善につながることとなる。 【具体的な取扱い】 @ 九州新幹線貸付料の一括前払い JR九州の鉄道ネットワークの骨格としての機能を有し、安定的な収益を生む九州新幹線施設を長期継続して利用することが可能となるよう、JR九州が、九州新幹線開業以降、新幹線施設の保有主体である(独)鉄道・運輸機構に支払うこととされている貸付料(30年間)について、平成28年度以降の貸付料を一括して前払いすることとし、経営安定基金のうち2,205億円を当該費用に振り替える。 A 鉄道資産取得のために(独)鉄道・運輸機構から借り入れた無利子借入金の償還財源への振替JR九州の長期借入金のうち、安定的な収益を生む新幹線車両等の資産や今後の鉄道ネットワークの維持・向上に資する鉄道資産(PCマクラギ、バリアフリー設備等)などの資産の取得に充てるために、(独)鉄道・運輸機構から借り入れた無利子借入金を一括償還することとし、基金のうち800 億円を当該償還財源に振り替える。 B 鉄道ネットワークの維持・向上に必要な鉄道資産への振替上記@及びAに振替を行った残余の872億円については、今後もJR九州が鉄道ネットワークの維持・向上、鉄道安全に資する鉄道資産への投資を確実に行うことを確保するため、具体的な内容を明らかにした投資計画を事前に確認した上で、鉄道ネットワークの維持・向上や鉄道安全に資する施設等への投資資金に振り替える。 以上の振替については、基金の設置の経緯及び趣旨を踏まえた振替が確実に行われるよう、法令において振替先を明確に定めておくことが適切である。さらに、上記Bの振替については、経営安定基金が、将来における維持更新投資にも配慮して設定されているという国鉄改革時の経緯に鑑み、JR九州に投資計画の作成を求め、国土交通大臣の承認を得ることとすることが適切である。 (3)JR会社法の取扱い 現在、JR九州はJR会社法の対象として、長期借入金、代表取締役等の選任、事業計画、重要財産の処分、定款変更等について国土交通大臣の認可が必要となっている。これは、国鉄の鉄道事業を承継したJR各社が経営自立するまでの間の安定的な経営を確保するため、国の後見的な助成・監督を目的として実施されているものである。しかしながら、3.で述べたように、同社については、良好な経営状況を継続しており、一般的な民間会社と比べても遜色ない利益水準にあることから、国による後見的な助成・監督の必要性がなくなり、完全民営化の条件が整ったと判断されるため、経営の自由度を高め、また機動的な経営が可能となるよう、先に完全民営化を達成したJR本州三社と同様に、JR会社法の適用対象から除外することが適当である。 JR九州がJR会社法の適用対象から除外されると、同社は長期借入金、代表取締役等の選任、事業計画、重要財産の処分、定款変更等に係る認可等、国による後見的な関与の対象から除外されることとなる。JR九州は、より機動的かつ自主的な経営を通じて九州各地の経済活性化や観光振興に貢献していくことが期待される。 他方で、国鉄改革においては、国鉄の経営していた鉄道事業における利用者の利便の確保や適切な利用条件の維持と、地域の経済及び社会の健全な発展の基盤の確保を図る必要があることから、そのための事業運営を、JR会社法の枠組みの中で確保してきた。 今般、JR九州についてJR会社法の適用対象から除外することとなるが、JR九州の鉄道事業に係る利用者の利便の確保や適切な利用条件の維持と、地域の経済及び社会の健全な発展のための基盤の確保を図るためには、なお当分の間、国鉄改革の経緯を踏まえた事業運営を担保する必要がある。 このため、JR九州についても、先に完全民営化したJR本州三社と同様に、国鉄改革の経緯を踏まえ、 @ JR会社間における旅客の運賃及び料金の適切な設定、鉄道施設の円滑な使用等の鉄道事業に関する会社間における連携及び協力の確保に関する事項 A 国鉄改革実施後の輸送需要の動向その他の新たな事情の変化を踏まえた現に営業している路線の適切な維持や、駅その他の鉄道施設の整備に当たっての利用者の利便の確保に関する事項 B JR九州が事業を営む地域において、当該事業と同種の事業を営む中小企業者の事業活動に対する不当な妨害や利益の不当な侵害を回避することによる中小企業者への配慮に関する事項 について、JR九州が当分の間配慮すべき事項を「指針」として示し、指針を踏まえた事業運営を確保する必要があると認めるときには国土交通大臣が指導・助言を行い、正当な理由なく指針に照らして必要な事業経営を行っていないと認めるときには勧告・命令を行うことができることとすることが適切である。 (4)上場の時期 昭和62年の国鉄分割・民営化により設立されたJR各社については、累次の閣議決定により「経営基盤の確立等諸条件が整い次第、できる限り早期に完全民営化する。」とされている。 3.で述べたように同社については、良好な経営状況を継続しており、一般的な民間会社と比べても遜色ない利益水準にある。例えば、東京証券取引所での上場基準である連結決算での黒字が2 年合計で5 億円以上であること等に照らしても、上場に関し問題のない状況にあるといえるなど、JR九州は、国による後見的な助成・監督の必要性がなくなり、完全民営化の条件が整ったと判断される。 また、JR九州自身も平成28年度を最終年度とする中期経営計画「つくる2016」において、「平成28 年度の株式上場の実現」を目標として掲げ、平成28年度を目がけた成長カーブを想定し、様々な施策を計画的に実行してきており、できる限り株価が高く評価される必要があることに鑑みても、JR九州の上場は、平成28 年度を目指すことが適当である。 JR九州に対するJR会社法の適用を除外するとともに、JR本州三社と同様の指針の策定、さらには経営安定基金の取扱いを定めるJR会社法の改正案の国会への提出については、経営安定基金の取扱いを明確にした上で、投資家説明等を行う必要があり、また、経営安定基金の他の資産への振替、決算への反映、主要幹事証券会社の選定や、証券取引所による上場審査などの手続き等に概ね1年程度の時間がかかること等を考慮すると、平成28 年度中の完全民営化を果たすため、JR会社法改正案を平成27 年通常国会に提出し、成立を図る必要がある。 おわりに これまで検討してきたように、JR九州は、良好な経営状況を継続しており、一般的な民間会社と比べても遜色ない利益水準に立ち至っていることから、国による後見的な助成・監督の必要性がなくなり、完全民営化の条件が整ったと判断されるため、累次の閣議決定に基づき、平成27年通常国会にJR会社法改正法案を提出する等、JR九州の完全民営化に向けた手続きに着手することが適切である。 完全民営化後も、JR九州は鉄道事業を中核とし、引き続き、安全を確保しつつ、鉄道サービスの維持・向上に努めることが期待される。 九州全域に鉄道ネットワークを有するJR九州は、完全民営化を達成することで、自立した経営判断とより機動的な事業運営及び事業展開を実現し、地域社会と共生し、地域に愛される企業として、九州地域の経済発展及び観光振興にこれまで以上に貢献していくことが期待される。 |
|
|
|
|