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No.5736 【国土交通省】整備新幹線未着工区間の「収支採算性及び投資効果の確認」に関するとりまとめ
ひろやす/伊藤(vnnc8158) 2012-04-03 22:58:18
国土交通省 PressRelease
Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism

平成24年4月3日
交通政策審議会陸上交通分科会
鉄道部会整備新幹線小委員会
[出典:国土交通省ホームページ]

  整備新幹線未着工区間の「収支採算性及び投資効果の確認」
         に関するとりまとめ


【総括】
 北海道新幹線(新函館・札幌間)、北陸新幹線(金沢・敦賀間)及び九州新幹線(長崎ルート)(武雄温泉・長崎間)を新規着工することの収支採算性及び投資効果については、前提となる交通需要予測結果等を検討した結果、国土交通省が行った試算の妥当性が確認されたものと考える。

 なお、事業の実施に当たっては、収支採算性及び投資効果に大きな影響を与える下記の事項について特段の配慮が必要である。

(1) 北陸新幹線と九州新幹線(長崎ルート)については、乗り換えの利便性を向上させるため、既に基本的な走行性能が確認されている軌間可変電車を積極的に活用することが効果的である。また、北陸新幹線については、新幹線区間と関西方面・中京方面等の在来線との連絡輸送量等を勘案し、軌間可変電車以外の在来線列車と新幹線の乗り換えの利便性向上にも十分配慮することが必要である。なお、軌間可変電車については、今後も継続して、走行耐久性や車両・線路の保守性等を確認していくことが必要である。

(2) 貨物列車と併用する北海道新幹線の青函トンネル等の共用走行区間では、安全確保の観点から、新幹線列車は、当面、時速140km での運行が予定されている。これについては、当該区間の速度向上がもたらす効果に鑑みて、今後、積極的に技術面の検討を行い、できる限り早い時期に速度向上の見通しをつけることが極めて重要である。

(3) 新幹線の総工事費については、技術開発等によって、これまでも節減の努力がなされてきたが、今後も一層の努力を継続することが重要である。
 また、当該事業は長期間を要するプロジェクトであることから、事業評価については、今後の社会情勢や周辺環境等の変化を踏まえ、最新のデータや条件を取り込み、他の公共事業と同様、継続的に点検を行うことが必要である。

【解説】
1. 検討の経緯
 整備新幹線の未着工3区間(北海道新幹線(新函館・札幌間)、北陸新幹線(金沢・敦賀間)及び九州新幹線(長崎ルート)(武雄温泉・長崎間))に関し、「整備新幹線の取扱いについて」(平成23年12月26日 政府・与党確認事項)において収支採算性と投資効果を改めて確認するとされたことを受け、交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会に整備新幹線小委員会が設置され、計9回の議論が行われた。本小委員会では、国土交通省が行った交通需要予測とそれに基づく収支採算性及び投資効果の算出結果等について妥当性の確認を行った。さらに、技術的事項や沿線のまちづくりの状況及び営業主体となるJR の動向についても収支採算性や投資効果の確認に深く関係があることから、関係者に対するヒアリングを実施した。

2. 交通需要予測、収支採算性及び投資効果の算出方法・前提条件について
(1) 交通需要予測の方法について
 1)用いられた交通需要予測モデル
 採用された交通需要予測モデルは、先進国で標準的に用いられている四段階推定法である。理論的にも妥当であり、現時点で最新の技術に基づくモデルを採用している。
 このモデルを構成する生成交通量モデルや発生交通量モデルには、事業評価の信頼性、透明性を確保するために構築された国土交通省統一の改善モデルが使用されている。当該モデルは、誘発交通を推計する構造とはなっておらず、結果として、輸送量については収支採算性及び投資効果をより低めに見積もる予測となっている。

 2)予測の前提条件
 生成交通量及び発生交通量に反映されるGRP(域内総生産)の設定は、直近10 年の変化をベースに2030年まで成長率1.0%から0.8%で設定され、2031年以降は成長率0%で設定されている。2030年までの成長率の設定は、最新の「経済財政の中長期試算」(平成24年1月24日 内閣府)で用いられた数値よりも小さな設定となっている。
 将来人口の設定は、国立社会保障・人口問題研究所の予測値(平成19年5月)の中位推計を用いている。
 整備新幹線の所要時間の設定は、頻度の多い停車パターンを踏まえて平均所要時間を設定しており、最速列車の所要時間より長めの設定となっている。
 新幹線の運賃・料金は、割引を考慮しない、正規運賃で設定されている。運賃は、現行の運賃計算法に基づいて営業キロから設定しており、料金については営業中の新幹線を参考に設定している。
 このように、多くの予測条件は、輸送量を低めに見積もる条件設定となっており、過大評価をしないという点において妥当と判断できる。
 なお、航空の運賃設定は、過去の実績を踏まえ、航空と新幹線が競合する区間は正規運賃の70%、競合しない区間は正規運賃の80%としている。将来の運賃の割引率を現時点で正確に設定することは、実際上困難であるものの、今回の整備新幹線の予測作業において、この設定は妥当性を欠くものではない。

(2) 収支採算性の検討方法について
 交通需要予測結果を基に、開業後30年間の営業収入、運輸営業費、減価償却費、税金等を勘案し、新幹線の開業により影響を受ける営業主体の全ての線区を収支計算の対象としている。また、計算手法は一般的な企業会計の規則等に基づいたもので、一般企業の財務分析と同様の方法を用いており、妥当と判断できる。

(3) 投資効果の検討方法について
 交通需要予測結果を基に、開業後50年間の利用者便益、供給者便益及び環境改善便益を算出するとともに、費用についても、過去の実績に基づいた建設開始から完了までの建設費・用地関係費や開業後50年間の維持改良費等を想定している。これは、国土交通省が公表している、最新の「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル2005」に準拠しているものであり、妥当と判断できる。

3. 交通需要予測、収支採算性及び投資効果の妥当性に関して
(1) 交通需要予測の結果について *1
 前述の前提条件に基づいて行われた交通需要予測結果を分析すると、各線区は輸送上、それぞれ以下のような特性を持つと判断できる。*2


*1 整備後の所要時間・交通需要予測ともに比較対象は、線区ごとに下記のとおりである。
 北海道新幹線:新青森・新函館間の開業後との比較
 北陸新幹線:長野・金沢間の開業後との比較
 九州新幹線:博多・新八代間の開業後との比較
 なお、所要時間は想定しうる最速列車のものを便宜的に記載しており、交通需要予測に用いている平均所要時間とは異なる。

*2 需要量は各路線の開業年度(北海道新幹線:2035年度、北陸新幹線:2025年度、九州新幹線:2022年度)の予測値である。なお、文中の地域は下記のとおり分類している。
 道 央:石狩、後志、空知、胆振、日高地域
 道 南:渡島、檜山地域
 東 北:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
 関 東:茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県
 北 陸:富山県、石川県、福井県
 関 西:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
 中 京:岐阜県、愛知県、三重県
 西九州:佐賀県、長崎県
 中 国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県

1) 北海道新幹線(新函館・札幌間)
 新函館・札幌間の整備により、所要時間は、札幌・函館間が3時間3分から1時間13分に、札幌・仙台間が5時間21分から3時間27分に、札幌・東京間が6時間55分から5時間1分にそれぞれ短縮される。この結果、鉄道利用者は、道央・道南間については1日当たり2,900人から8,400人に、道央・東北間については1日当たり1,000人から2,700人に、道央・関東間については1日当たり1,300人から5,500人に増加する予測結果となっている。

2) 北陸新幹線(金沢・敦賀間)
 金沢・敦賀間の整備 *3 により、所要時間は、福井・東京間が3時間18分から2時間52分に、金沢・大阪間が2時間31分から2時間1分に短縮される。この結果、鉄道利用者は、北陸・関東間については1 日当たり16,700人から17,600人に、関西・北陸間は12,900人から14,400人に増加する予測結果となっている。また、中京・北陸間についても4,200人から4,900人に増加する予測結果となっており、関東、関西及び中京圏の3大都市圏と北陸圏の旅客流動量の増加に寄与している。
 一方、北陸三県内の流動に着目すると、富山・石川間は1日当たり1,000人から1,800人に、石川・福井間は1日当たり800人から2,000人に、福井・富山間は1日当たり400人から1,100人にそれぞれ増加する予測結果となっている。


*3 軌間可変電車を導入した場合を想定している。


3) 九州新幹線(長崎ルート)(武雄温泉・長崎間)
 武雄温泉・長崎間の整備により、所要時間は、長崎・博多間が1時間48分から1時間20分に、長崎・新大阪間が4時間28分から4時間に短縮される。この結果、鉄道利用者は、西九州・福岡間については1日当たり11,600人から14,900人に、西九州・中国間については1,400人から1,700人に、西九州・関西間については1,800人から2,200人に増加する予測結果となっている。

(2) 収支採算性について
 収支改善効果は、未着工区間を整備しない場合と比較した時の営業主体が享受する受益を意味する。未着工3区間の収支改善効果は、開業後30年間の平均が年額20〜102億円といずれも正の値であることから、いずれの線区も収支改善効果があるものと判断できる。なお、この収支改善効果は、新幹線施設の貸付料の形で、営業主体から30年間にわたり徴収され、整備新幹線の建設財源等に充当される仕組みとなっている。

(3) 投資効果について
 未着工3区間の投資効果の計算結果については、費用便益比(B/C)は1.1程度、純現在価値(B-C)は正の値、プロジェクトの社会的な意味での利回りを表す経済的内部収益率(EIRR)は4.5〜4.6%となっている。
 なお、投資効果の総便益に計上されていない主な事項として、災害時の多重性・代替性の確保、冬季における輸送安定性、新幹線の最高速度が将来向上する可能性等が挙げられる。特に、災害時の多重性・代替性の確保については、先般の東日本大震災の経験を通じ、幹線交通に多重性を持たせることの重要性が再認識されたところであり、新幹線が幹線交通ネットワークにおける耐災性・信頼性向上の一翼を担うことが期待されている。例えば、北陸新幹線は東海道新幹線の代替・バックアップ機能としての期待は大きい。
 以上を総合的に勘案して、投資効果の判定は妥当であると判断できる。

4. 投資効果に影響する技術的事項に関して
(1) 軌間可変電車
 わが国の鉄道は軌間1,067oの狭軌で建設が開始されたが、新幹線については、列車の高速走行を可能とするため標準軌(1,435o)で整備されてきた。これまでも、両者の間の乗り換えの利便性向上のために、在来線の軌間を標準軌に変更した山形・秋田新幹線の方式や、在来線特急列車と新幹線を同一ホームで乗り換えできるようにした九州新幹線新八代駅の方式などが導入されてきた。このような方式に加え、車輪間隔を自動的に変換して軌間の異なる路線間の直通運転を可能とする軌間可変電車(フリーゲージ・トレイン、以下「FGT」)の技術開発が進められてきた。この技術は、平成9年度から本格的な開発が進められ、平成23年10月には、国土交通省が設置した軌間可変技術評価委員会において、「基本的な走行性能に関する技術は確立している」と評価されるに至っている。
 九州新幹線(長崎ルート)は、流動の多い福岡と西九州の所要時間短縮を効率的に行うため、既存の九州新幹線(博多・新鳥栖間)及び線路の線形が良く比較的高速で走行可能な在来線(新鳥栖・武雄温泉間)を利用するとともに、武雄温泉・長崎間は新幹線新線を建設する計画である。新幹線と在来線との接続を2箇所持つことになる当該新幹線では、FGT の導入は乗り換えを必要としない有効な方法である。また、西九州と中国・関西との間にも一定程度の流動が見込まれており、FGT が山陽新幹線に乗り入れることによって一層の利便性の向上が図られる。
 北陸新幹線については、北陸と関西・中京との間で1日当たり約19,000人の流動が予測されており、敦賀以西の整備までは敦賀駅での乗り換え利便性の向上が不可欠である。この流動に対応するには、車両編成の長い列車が多数設定されることが想定され、敦賀駅で同一ホーム乗り換えを行う場合には相当の工夫が必要となる。このため、直通運行できるFGT は車両費等が割高な面はあるものの乗り換え利便性の面で優れており、積極的な活用を図るべきである。また、FGTが導入された場合においても、敦賀駅では新快速等の在来列車や一部の特急列車との乗り換えも想定され、これらとの乗り換え利便性の確保にも十分配慮する必要がある。
 なお、FGTの実用化に当たっては、車両の検査周期や部品の交換周期、線路の維持管理等の検討を行い、車両や線路の耐久性、保守性を確認していくことや雪対策等の課題への対応が必要である。

(2) 青函共用走行区間の走行速度に関して
 北海道新幹線の青函トンネル及びそれに連続する区間においては、新幹線列車と貨物列車とが共用走行する区間となっている。高速で走行する新幹線と貨物列車のすれ違いについては、大規模な地震発生時等における安全性の観点から慎重な検討を要するため、当面は、現行の在来線の特急列車と同等の時速140kmでの走行を想定している。この想定は、現時点ではやむを得ないものであるが、将来的に新幹線の整備効果を高めるためには、車両面、列車制御面等を含めて速度向上に向けた多面的な検討を早急に進め、できる限り早い段階に速度向上等の見通しをつけることが極めて重要である。

(3) 総工事費の縮減及び事業評価の継続的見直し
 今回の事業評価における総工事費は、現在の技術水準を前提として積算されているが、これまでの整備新幹線においても技術開発等によってコスト縮減が図られてきた実績がある。今後も技術開発等の技術的取り組みをなお一層推進し、メンテナンスコストも含めたコストの縮減及び高品質化を図ることにより投資効率を高めることが重要である。
 また、交通需要予測には、現時点では想定が困難な要素(例:最高設計速度の向上による影響、訪日外国人旅行者の増加の影響、ローコストキャリア等の航空サービスの将来動向等)が含まれ、予測結果に正負双方の効果を及ぼし得るため、最新のデータや条件を取り込み、継続的に予測作業、さらには事業評価を点検することが必要である。

5.その他関連する事項
(1) 最高設計速度向上の必要性
 整備新幹線の整備区間における新幹線列車の最高設計速度は、現時点では、昭和40年代の検討に基づき、時速260kmと設定されている。しかしながら、我が国や諸外国においても、線区によっては既に時速300kmもしくはそれ以上の速度で営業運転が行われている。
 最高設計速度の向上には、相応の環境対策の検討が必要となるが、全体としては、収支採算性や投資効果を高めるものと期待される。このため、最高設計速度の向上に向け、制度的 *4・技術的な制約要因を整理し、できるだけ早期かつ積極的に課題を解決していく必要がある。

(2) 沿線地域の取り組みについて
 新幹線の整備を沿線地域の活性化に繋げていくためには、まず、高速道路や空港等の整備も進んできている中での新幹線の整備であることを念頭に置く必要がある。新幹線と接続する他の交通機関とのアクセス性の向上を視野に置いた交通計画の立案と実施が不可欠である。また、今後、人口が減少していく中で、新幹線の駅が地域活性化に貢献していくには、駅周辺の商業開発のような従来行われてきたコンセプトを乗り越え、例えば、沿線住民や地場企業にとっての使いやすさを追求するなど、地域の創意工夫に立脚した駅や周辺利用の新たなあり方を検討していく必要がある。


*4 例えば、全国新幹線鉄道整備法第7条第1項の規定に基づく整備計画において、未着工3区間の最高設計速度は時速260kmと定められている。