ひろやす/伊藤(vnnc8158) 2011-09-29 18:57:20 |
いちばん近くにいるのに、一番わからないあなた。
「まもなく終点、電鉄富山駅です」。今日も一日の勤めを終えた、鉄道運転士の滝島徹(三浦友和)。入社して42年、35年間無事故無違反で勤め上げ、あと1カ月で定年だ。そんな徹に、毎日弁当を作り続けた妻の佐和子(余貴美子)は55歳、ふたりは第2の人生を目の前にしていた。 「話があるんだ」。ほぼ同時に、パンフレットを取り出して相手に見せる徹と佐和子。夫の手には国内旅行の、妻の手には在宅緩和ケアセンターのパンフレットがあった。「ここで働くことに決めました」と、先に話し出す佐和子。ひとり娘の麻衣の出産を機に辞めた看護師を再開したいと、以前も夫に話していたのだ。「とっくに終わった話だ」と不機嫌になる徹。徹の定年後は、自分のために時間を使いたいという佐和子の訴えは、「何が不満だ!」と一喝される。言い争いの最中に同僚が倒れたという知らせを受け、再び駅に戻る徹。乗務を終えて帰宅すると、佐和子の姿はなかった。 翌朝、娘の麻衣(小池栄子)や、その夫の光太(塚本高史)に電話をし佐和子を探すが、連絡が取れないまま出社することに。そんな中、徹は入院した同僚の代わりに、新人運転士小田(中尾明慶)の研修指導を頼まれる。徹から見れば緊張感のない小田に、いきなり「お前はこの仕事に向いてない」と厳しく接する徹。一方、佐和子は緩和ケアセンターで医師の冴木(西村雅彦)から患者について説明を受ける。患者だけでなく、家族の力にもなってほしいと話す冴木に深く頷く佐和子。 その夜、母から話を聞いた麻衣が、実家を訪ねる。勉強して頑張ろうとしているのに、なぜ応援しないのだと責める娘に、「家のことは誰がやるんだ」と、自分のことしか考えない徹。お腹の大きな麻衣は、もうすぐ孫が生まれるのにと、両親のまさかの別居に心を痛める。 担当することになった信子(吉行和子)の家を訪れる佐和子。末期癌の彼女は、娘と孫に囲まれて、残された時間を自宅で過ごすことを強く希望していた。信子にこの仕事を選んだ理由を聞かれた佐和子は、癌に罹った母が病院で苦しみながら亡くなったことを話す。しかし信子に、母親の代わりだと思っているのかと不快感を示され、佐和子は悩んでしまう。 元上司の吉原(米倉斉加年)と同僚の島村(岩松了)と、定年祝いに温泉に出かけた徹は、再就職先を決めない理由を聞かれて、本当は運転士を続けたいのかもしれないと答える。吉原に「長いぞ、これからの時間は…」と言われた徹は、この先の人生について改めて思いを馳せる。佐和子の方も、看護師時代の友人と会っていた。復帰の理由を聞かれた佐和子は、徹には秘密にしている、自分を変えたある出来事を打ち明ける。 徹が帰宅すると、佐和子が待っていた。仕事はやればいいという徹の言葉を、うれしく思う佐和子。だが、徹は少し働けば気がすんで辞めるだろうと思っていた。「この仕事は、ずっと続けるつもりだから」「だったら出て行け!」徹の怒声への佐和子の返事は、自分の名前を書き込んだ離婚届だった。 美しく雄大な北アルプスも目に入らない沈んだ表情で、ただ黙々と運転を続ける徹。佐和子の誠実さに心を開き始めた信子を、心を込めて介護する佐和子。別々の人生を歩き始めた二人だが、夕食の時などふと相手のことを想うと、独りの寂しさが沁みた。 ところが、突然降りかかった事件が、再びふたりを引き寄せる。徹が運転する電車が落雷のため崖の上に緊急停車、そこには黙ってひとりで外出した信子が乗っていた。信子の容体は急変するが、救急車は近寄れない。知らせを聞いて駆けつけ、崖をよじ登る佐和子に、手を差し出す徹。そこには、夫が初めて見る妻の姿があった─。 |
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