NEWS RELEASE:JR&私鉄    3
No.7700 (Re:7697) 【国土交通省】JR北海道の安全確保のために講ずべき措置 第1章
ひろやす/伊藤(vnnc8158) 2014-01-21 22:00:50
[出典:国土交通省ホームページ]

         JR北海道の安全確保のために講ずべき措置
            ―JR北海道の再生へ―

                                平成26年1月21日
                                 国土交通省

第1章 JR北海道問題に対する基本認識

1.JR北海道の現状
・JR北海道は、平成23年5月27日、石勝線において、79名が負傷するという大きな列車脱線火災事故を発生させた。JR北海道は、この事故を契機として、安全を最優先とし、安全管理体制の構築等の安全対策を着実に進めるべきであった。
・しかしながら、JR北海道では、その後も、車両のトラブルが度重なるとともに、運転士によるATS(自動列車停止装置)のスイッチの破壊、そして貨物列車脱線事故の発生、これを契機として判明した整備基準値(注1)を超える軌道変位(注2)の放置、検査データの改ざん、さらには、脱線事故直後における軌道変位の検査データの改ざんの発覚等、鉄道事業者としてあってはならない異常な事態が続いている。
・このような現状に鑑みれば、JR北海道は、輸送の安全確保が至上命題である鉄道事業者としての基本的な資質を、一から問われている状況にあるものと認識せざるを得ない。

 注1 軌道管理のため、鉄道事業者が、これを超過した軌道変位(注2参照)があった場合には、一定期間内に補修を行うべきと定めた基準。
 注2 「軌間」(レールの幅)等について、本来あるべき状態からのずれ。

2.JR北海道が果たすべき鉄道事業者としての責務
・一方で、JR北海道が運営する鉄道は、札幌都市圏における輸送機関として、豪雪地域における安定した地域輸送機関として、また、都市間輸送を担う輸送機関として、年間延べ1億3千万人(平成24年度)にも及ぶ多くの道民や観光客が利用する等、北海道の生活・経済を支える基幹的な輸送機関となっており、直ちにその輸送サービスに代替し得るものがない状況にある。
・このため、JR北海道において、日々の輸送の安全をしっかりと確保しつつ、構造的な問題に対応するため、安全な輸送の確保に求められる総合的かつ抜本的な措置を確実に実施することにより、鉄道事業者として徹底的な再生を図ることが必要である。

3.平成25年9月19日の貨物列車脱線事故に関する問題
・平成25年9月19日18時5分頃に発生した函館線大沼駅構内における貨物列車脱線事故に関し、以下の事実が判明した。
 @ 脱線事故が発生した大沼駅構内2番副本線につき、JR北海道による事故前の直近の検査である6月7日の検査の結果において、脱線事故現場の「軌間」の軌道変位が、整備基準値19mmに対し39mmと記録されていたにもかかわらず、これを補修することなく放置し、さらに、9月19日の事故直後に、現場職員が当該数値を25mmと改ざんし、その数値が行政当局等に報告されていた。なお、管理データとして記録されていたのは39oであったが、管理データにする際の数値補正に誤りがあり、実際の「軌間」の軌道変位は38mmであった。
 A 同副本線につき、同じく6月7日の「通り」(注3)の軌道変位について、9月20日に現場職員が脱線事故現場付近の数値を改ざんし、その数値が行政当局に報告されていた。なお、最も大幅に改ざんしたものとしては、整備基準値19oに対し実際には49mmであったものを12mmと改ざんしたものがあった。
 B 9月23日から26日にかけて、現場の管理職級の職員の指示により、少なくとも平成23年3月分以降の同副本線等に係る作業実績記録を改ざんし、実際には実施していない補修作業を実施したものとして記録した。
 C 運輸安全委員会からの求めに応じ、同駅構内の本線上の軌道検測車(マヤ車)の検査データに基づき資料を作成する際に、本社担当職員が、6月3日及び8月22日の検査における「軌間」の軌道変位につき、整備基準値超過箇所の数値を整備基準値内の数値に改ざんした上で、その資料を、10月24日、同委員会に提出した。

 注3 レールの延長方向における左右のずれ。「軌間」が正常であっても、一組のレール全体が左右の一方にずれる場合には、「通り」の変位が生ずる。

・この事案は、次の2点の重大な問題を包含している。
 @ まず、少なくとも6月7日から9月19日までの3ヶ月以上もの間、整備基準値を19oも超過する、38oという大幅な「軌間」の軌道変位等を放置していたことは、輸送の安全上重大な問題である。
 A さらに、検査データ等の改ざん自体、鉄道事業の安全管理の基本に反するものであるが、事故直後に、このような大幅な軌道変位の検査データ等を改ざんし、その改ざんした検査データ等を行政当局等へ提出したことについては、事故の正確な原因究明と再発防止対策の確立を困難なものとする等、鉄道事業者としてあるまじき重大な問題である。

4.JR北海道における改ざん問題に対する基本認識
・JR北海道においては、3.の事案以外にも、複数の現場で軌道変位の検査データの改ざん等があり、国土交通省は11月14日から改ざん問題を中心とする同社への特別保安監査を行ってきたところである。特別保安監査を通じて確認した改ざんの概況は別紙1のとおりであるが、その主な内容及び動機・背景は、以下のとおりである。

@ 貨物列車脱線事故に関する改ざん
 貨物列車脱線事故に関する改ざんの内容は上記3.のとおりであるが、この動機・背景については、関係職員から、脱線事故現場の「軌間」に係る改ざんについては、大きな軌道変位の放置を隠しておきたかった旨の、作業実績記録の改ざんについては、必要な補修作業を長年してこなかったことを隠しておきたかった旨の、マヤ車による検査データに基づく提出資料の改ざんについては、すぐに補修をすれば問題ないと思って見栄えを良くするために数字を書き変えた旨の口述が得られた。

A 貨物列車脱線事故関係以外の改ざん
 貨物列車脱線事故に関する改ざん以外に、副本線・分岐器に関する軌道変位の検査データについて、整備基準値を超過しているものを整備基準値内とした改ざんや、軌道変位を測定せずに前回の検査データの数値等を入力したもの等が確認された。この動機・背景については、関係職員から、軌道変位の放置が特別保安監査で発覚することから逃れようとした旨、実施基準等に従った補修を行い切れないことから改ざんを行った旨、また、前任者からの引き継ぎ等により慣例化していた旨の口述が得られた。

・鉄道事業者における鉄道の施設等の安全管理の基本は、一定の期間ごとに検査を実施し、その検査データを正確に記録して経過観察を行うとともに、所定の基準を超えた場合には、補修等の安全上必要な対応を行うというものである。鉄道行政においても、これを前提として、鉄道事業の実態を把握し、鉄道事業者の監督を行い、また、各種施策を講じている。したがって、正確な検査データは、鉄道事業者及び鉄道行政双方にとって、輸送の安全確保のための様々な対策を行う上で根幹となる事項であり、検査データの改ざんはこれを損なうものである。
・このような検査データ等の改ざんは、まさに輸送の安全確保の仕組みを覆すものであって、その動機・背景のいかんにかかわらず、いかなるものであっても、絶対に容認することはできず、その根絶を図る必要がある。
・改ざんが確認された現場においては、改ざんが常態化していた等の実態も認められ、根深いものであることから、その根絶には、以下のような多面的な視点で対策を講ずる必要がある。
 @ コンプライアンス(法令・ルールの遵守)の徹底等、改ざん問題に係る企業体質・組織文化の改革
 A 自動化された機器の導入やチェック体制の構築等、改ざんを防止するハード面・ソフト面での作業環境の整備
 B 改ざんが行われた場合における厳しい処分環境の整備
・なお、3.で述べた大沼保線管理室での事故直後に行われた改ざん及び函館保線管理室における軌道変位の放置が特別保安監査で発覚することから逃れようとした改ざんについては、鉄道事業法に基づく報告の徴収及び立入検査の制度の趣旨を意図的に否定する行為であり、鉄道行政として厳正に対処する必要がある。

5.JR北海道における安全確保問題に対する基本認識

(1) 軌道変位の放置の実態
・JR北海道においては、上記の貨物列車の脱線事故現場における大幅な「軌間」の軌道変位等の放置という重大な問題があったが、事故後のJR北海道からの報告に基づけば、本線・副本線において、270箇所の軌道変位が整備基準値を超過しており、整備期限を過ぎても放置されていた。
 なお、その後、上記のJR北海道の報告には、分岐器関係が含まれておらず、また、検査データの改ざんが判明した。
・このような状況を踏まえ、安全運行を確保するため、JR北海道に対して、全ての検査データの適正性を確認し、その上で必要な補修を行うよう指示した。JR北海道においては、本線については、改めて検査データの適正性を確認し、昨年内にこれを基に必要な補修を完了し、現状においては、通常の運行がなされている。また、副本線及び分岐器については、積雪期に入ったこともあり、所要の作業を行うにはなお時間を要することから、その間は、徐行運転を行うこととしている。

(2) 現場における問題
・JR北海道に対する今回の一連の特別保安監査の発端となったのは、この軌道変位の放置である。本来、軌道変位については、保線業務を担う各現場において、会社が定める実施基準等に従い、正しい検査の結果に基づき、適切な補修計画を立て、所定の期間内に確実に補修を実施することが必要である。
・特別保安監査では、現場において、
 @ 現場の担当者が、基準を超えていることを認識しながらもこれを放置していたという、基本的な安全意識が欠如していると言わざるを得ない事例
 A 現場組織において、関係者間の業務分担の不明確・連携不足により、検査の結果が補修に結び付かず、一方で、このような放置されていることをチェックする体制が整っておらず、現場の管理者もこれに適切に対応していなかった事例
 B 特に若年の担当者が、検査と補修の基本的な知識を習得しておらず、基準を超えて放置した場合の安全上の問題について理解をしていなかった事例等の問題のある事例を確認した。また、これに関連して、これらの業務を適正に実施するための業務実施体制の不備や、軌道補修に関する技術の伝承が不十分であったという問題も確認した。
・これらの問題については、実施基準等に従って適切に業務を行うことが、一義的には現場の責任であることから、まずは、各現場において、その現場の管理者の管理の下、必要に応じて本社等の上部組織に働きかけること等を行い、関係職員が解決を図るべきものであった。

(3) 本社における問題
・一方、本社は、まず現場の状況の適切な把握が求められるものであり、これを前提として、業務実施に関する規程等の整備、適正な業務実施体制の整備、所要の予算の配賦、要員の確保及び教育訓練等を行い、日々の安全確認や現場指導等を通じて、会社全体として輸送の安全を確保するための業務実施の徹底を図ることが必要である。
・特別保安監査では、本社において、安全統括管理者が現場の状況を把握せず各部門の統括管理を行っていない、安全推進委員会でトラブルの原因究明・再発防止等の対策が十分に審議されていない等安全管理体制が十分に機能していなかったこと、予算や設備投資計画の作成に当たって現場の意見が十分に反映されてこなかったこと、技術伝承及び安全確保のための要員確保及び教育訓練が十分でなかったこと、規程等の整備状況及び運用が不適切であったこと等の問題を確認した。
・本社は、これらの問題に関し、現場において適切に対応していると思っていたと説明しているが、当然本社は、会社全体としての輸送の安全確保のために、これらの問題について適切に対応すべきであった。

(4) 安全確保問題に関する背景等
・軌道変位の放置に関しては、(2)及び(3)で述べたとおり、現場においては輸送の安全確保のためになすべき作業が行われず、また、本社においてもこのような現場の実態への関心が薄く、対応を現場任せにしてきた。こうした問題も含め、JR北海道における輸送の安全上の問題は、単純に1つの原因や背景に起因し、これを排除することによって解決するような性質のものではなく、複合的な要素により顕在化してきたものと捉えることが必要である。
・まず、現場においては、関係者間の業務分担の不明確・連携不足やチェック体制の不備等の体制上の問題があるが、基本的には、個々の職員に自らの業務を放置せずに確実に実施するという責任感や日々の業務が輸送の安全を支えるという意識が著しく乏しかったという問題があるものと考えられる。
・また、本社においては、JR北海道の発足以来、利用者利便の向上を図るため、列車の高速化、札幌圏での輸送力強化等を行ってきており、これらに相当の資金、人材等の経営資源を投入してきた一方で、会社発足後十余年の間、日々の輸送の安全を支える基礎的な業務分野については、現場の状況を適切に把握することなく、必要とされる資金面や人材面での対応が十分ではなかった。この結果、施設・設備の老朽化、職員の年齢構成の歪み等が輸送の安全を確保する上で大きな問題となってきたものと考えられる。
・さらに、そうした基礎的な業務分野については、本来であれば、施設・設備の経年変化、職員の年齢構成の変化、新しい技術の開発等に対応して、本社と現場における業務のやり方についての見直し及びこれを踏まえた必要な対策が講じられるべきであった。しかしながら、本社及び現場ともに、このような環境の変化にもかかわらず、旧国鉄時代からのやり方を変えることなく漫然と続け、さらに、それすら維持することができなくなった面があると考えられる。
・これらの問題に対応するための予算配賦についても、本社は十分に現場の意見を聴くことなく、前年度を踏襲した予算編成を行ってきており、現場においては、このような本社の姿勢に対して、現場としての必要額の要望をあえて行う意欲を失ってきたという面があると考えられる。
・したがって、JR北海道においては、まずもって、経営陣をはじめ全職員が、今回の一連のトラブルを契機に判明した諸問題が安全を軽視する姿勢から生じたものであることを深く反省することが必要である。その上で、会社全体が一丸となって、直接的・具体的な個々の輸送の安全上の問題について着実に1つ1つ対策を講ずるとともに、JR北海道が安全で信頼される鉄道事業者として再生するため、個別の対策に止まることなく、企業体質・組織文化を含めて構造的な問題について改革することが必要である。